私は目覚める -5-2月30日 彼女はいまだ眠り続けている。 Sleeping Beauty 眠り姫 俺は彼女をそう呼ぶことにした。 ────。 男はいつの間にか、喋りかけるのを諦めたようだった。 ざっ、と言う音が鳴った。 男はそこに腰を下ろして、空を見上げていた。 私と同じように、空に吸い込まれるように────。 私もまた、空へと意識を戻す。 空は変わらず、ゆっくりと雲が流れる。 太陽は、時折雲間に隠れてはまた、顔を出す。 時がゆっくりと流れる。 3月4日 買い物から帰ると、部屋から声が聞こえた。 部屋を一通り眺めてみたが特に人らしき影は見当たらない。 まさかと思い駆け寄ると、期待通りだった。 目の当たりにした時、胸が高鳴った。 眠り姫がついに目を覚ました。 まだ声が上手く出なかったらしい。 眠り続けていたせいだろうか? 彼女はすぐにまた眠ってしまったけれど、今までと明らかに違う点がある。 寝返りを打つようになったようで、時折衣擦れの音が聞こえてくるようになった。 眠り姫がもうすぐ目を覚ます。 早くその日がくるといい。 本当に心からそう思う1日だった。 ────。 どれくらいの時が経ったのか、男のごそごそと動く物音で意識が覚醒しだす。 何かを喋ろうとして、躊躇って、口を閉ざす。 「なぁ、お前は・・・・」 ふと、声を掛けてきた。 戸惑いと躊躇いからか、遠慮がちな声。 不思議と、さっきみたいに過剰な反応はしなかった。 ゆっくりと空から視線をはずして、男の顔を見る。 振り返りざま、髪がふわっと舞う。 風が優しく吹いて、二人の間を駆け抜ける。 髪を纏めながら、男をじっと見つめる。 「あ~・・・いや、その~・・・」 頭を掻いて、迷いながら聞いてくる。 「聞いても・・・いいかな?」 「・・・・・なに?」 「───空って、何でこんなに広いんだろうな。・・・あ~、いや、特に意味は無いんだけどな。その、なんて言うのかな────」 何故か焦ったように言い訳をはじめている男を、私はじっと見る。 (この人は何が言いたいのかな?) なんだか焦っている様子をじっと見ていると、頬の筋肉が緩んでいく。 それがどんな表情を作っているのかよく分からないけど、なんとなく顔を前に向ける。 男からは顔が見えない位置にする。 (人には───見せたくないなぁ・・・・) 気持ちを誤魔化すように、悟られないように、空を見上げる事にした。 風が吹き、服がたなびいてぱたぱたと音が聞こえる。 草のすれあう音。 呼吸の音と、鼓動の音。 耳に入ってくる全ての音が、優しさに溢れている感じ。 「なぁ・・・」 声が耳に届いただけで、身体が大げさなほどに反応した。 なにか、その先の言葉を拒否するように。 「──────っ」 身体が僅かに震えだして、歯がカチカチとなる音が聞こえる。 「─────・・・・。」 声が最後まで聞こえなかった。 否、聞こえなかったと思い込もうとした。 その言葉は私の心に重くのしかかってきて。 その言葉を忘れ去ろうとして、私の意識は遠のく。 ────────。 そうして私は、再び目覚める。
by kioku-tobira
| 2006-07-25 03:28
| 第一章 私は目覚める
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